放射線には一般に、α線、β線、γ線および中性子線があります。
このうちγ線と中性子線は透過力が強く、人体、機器および装置に影響を及ぼすため、放射線を遮蔽し安全で健康的な環境を未来にわたって保ち続けることが社会的なテーマになっています。
その先進性が評価され、これまでに、原子力施設、核燃料キャスク、核燃料再処理関連、放射性廃棄物、加速器、医療、放射線照射施設および放射線利用研究など幅広く使用されています。
さらに遮蔽性能の高い放射線関連の先端的な商品を追加し、最近では、中性子遮蔽服「NEUTRON-TEX」(日本原子力研究所と共同特許出願中)を開発するなど、目的にあわせて選択できる豊富な商品を取り揃えております。
従来、放射性医薬品を人体に投与する際には術者の被曝を軽減するために、薬液が既に充填されたシリンジタイプの容器(以下、プレフィルドシリンジという)を、鉛合金やタングステン合金等の放射線遮蔽材から形成された円筒状の放射線遮蔽容器で覆う方法が取られていた。しかし、この方法では、放射性医薬品を押し出す方向、即ち、注射筒とプランジャーとの開放部からの放射線の漏洩は防ぐことができなかった。
そこで、鉛合金やタングステン合金等の放射線遮蔽材をプランジャーの先端部に接合するか、或いは、注射筒内のガスケットをこれらの素材で構成することによって、この開放部からの放射線の漏洩を防ぐ試みが、しかし、これらの公報に記載されたプランジャーのプランジャー本体と放射線遮蔽材との接合は接着剤による接着等の二次加工によるものであるために結合力が弱く、使用時に分離してしまう危険性があった。また、プランジャーとガスケットとの接続はプランジャー先端の雄ネジとガスケットの雌ネジによって行われることが通常であるが、放射線遮蔽効果を上げるためにネジ部までも鉛合金やタングステン合金等の金属で製作することは、ネジの形状を自由に加工することが難しいうえ、プランジャーをガスケットにねじ込む際にガスケットの素材を傷つける恐れもあった。
これらの問題を解決するために、合成樹脂製のプランジャー及びゴム又は合成樹脂等の弾性材料よりなるピストン(ガスケット)の成形過程で適当に成形加工した放射線遮蔽材を予めセットしておき、複合成形をすることで接着剤を使用せずに強固な結合をしたプランジャーを開示している。しかし、このプランジャーは、従来技術と同様に、プランジャー先端部のみに重い遮蔽材を接合しているので全体として重量のバランスが悪く使用に不便であるという問題が残されていた。また、このプランジャーも放射性医薬品が充填されたプレフィルドシリンジに使用するが、プレフィルドシリンジを鉛合金やタングステン合金等の放射線遮蔽材から形成された円筒状の放射線遮蔽容器に装着して使用する際に、放射線遮蔽容器の内径とプランジャーのギャップに相当するリング状部分の放射線の漏洩を防ぐことができなかった。
プランジャーにおいて放射線遮蔽材を形成するタングステン粉末をプラスチック樹脂に配合してなる複合材料とは、例えば、熱可塑性高比重樹脂組成物等をいう。該熱可塑性高比重樹脂組成物は、熱可塑性樹脂にアクリル酸エステル共重合体、タングステン粉末、飽和脂肪族カルボン酸化合物を配合してなる。該熱可塑性樹脂としては、一般に射出成形加工に供せられているものであれば特に制限はなく、例えばポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォン、ポリオレフィン、ポリフェニレンキサイド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、AS樹脂、AN樹脂、ABS樹脂等を挙げることができる。
上記複合材料に配合されるタングステン粉末の比重は19であり、平均粒子径は50μm以下であることが望ましい。特に、粒子径10μm以下のものがタングステン粉末全体の割合で50重量%以上、かつ、粒子径20μm以上のものが30重量%以上の粒子分布となっているタングステン粉末が好適である。このような粒子径分布の場合に、特に溶融時の流動性が良好となる。また、該複合材料の比重は、混合するタングステン粉末混合比を変えることで自由に調節できる。